瞳の中の宇宙
あるお昼時のこと。
いつも通りコンビニ弁当を食べ終えた私は、ペットボトルのお茶をひとくち飲んでから、ポンと机に置き、鏡を取り出した。
「なんだか目が乾くんだよなぁ」
面倒くさそうに机にもたれながら、どれどれ、と鏡で目の中を覗きこんでみる…
見る…
見…
!
ぎょっ!ぎょえぇえええっ!
黒目の中に!黒目の中に!
超でかい超でかい超でかいッ
ミドリムシがいるー!!
あまりの仰天振りに身体が固まってしまった私は、目を逸らすこともできずミドリムシをしかと見つめた。
確かにこれは学校の授業で習ったあの原生動物だ!
三日月の形、この緑茶のように染まった緑の体・・・そうして、背中に「静岡茶」の文字…
って、ん?
(はいはい、ペットボトルの緑茶が目に映りこんでただけね。)
それがプライド
静かな夜のとばり。誰もが寝静まった閑静な住宅街…。
私はふかふかの枕に顔をうずめ、今日一日の疲れを癒すべく深い眠りに落ちようとしていた。
しかし!
突如、路上から発せられた罵声がその静寂を打ち破った!
「ばッかやろうッ!
そんなことしたら
犬の
ウトウトしていた私は、闇夜をつんざくおじさんの罵声で完全に目を覚ました。心臓が一気に鼓動を速めるのがわかる。そして、ガバッと布団から起き上がると、鳴り止まない心臓を押さえながら無い脳みそで思案した。
な、なんだ、なんなんだこんな夜中に。喧嘩か!?酔っ払いか!?今何時だと思ってんだ!?ここは田舎の一軒家じゃないんだぞ!
や、そこじゃない
今突っ込むのはそこじゃない。絶対にそこじゃない。
犬ってなに!?
犬 の 沽 券 っ て 何!?
犬の沽券って―(°□°∩;)―!
しかし、オジサンはそう言い残したまま、二度と言葉を発することはなかった。動揺する私だけを残して、街は再び静寂に包まれる。
オジサンは消えた。
闇夜に消えた。
きっと、犬の沽券を一身に背負って。
(私、寝ぼけてたのかなぁ)
いつも側に…。
いつごろからでしょうか、あの人が出没し始めたのは。今となっては思い出すことができませんが、確か最初は妹のひと言からでした。
「お姉ちゃん、今日、駅前にいた?」
「は?いないよ、普段駅なんて使わないし…」
「だよねぇ、すっごいそっくりな人がいたんだ、お姉ちゃんに。わたし、話しかけようと思ったんだけど、そんなところにいるわけないよなぁって思って。ねぇ、あれ本当にお姉ちゃんじゃない?」
「違うって。いないって」
「…だよねぇ」
「それにしても身内が間違えそうになるなんてよっぽど似てるんだね。世の中には似た顔の人がいるとは聞くけど」
「うん、だってすごいんだよ、顔も髪型も、服装も、あの悪趣味な色の自転車も、まるでお姉ちゃんなの」
「へえ…なんか怖いね、それ。」
どさくさにまぎれて人の自転車を悪趣味呼ばわりした妹は、それからもしばし、その人物とニアミスをしたらしく、そのたびに「似てるなあぁ、でも違うよなぁ」というどっちつかずの感覚を覚えたらしい。しかし、月日がたつにつれ、いつしかそんな話題も私たちの中から消えていった。
あれから数年。
わたしは住み慣れた故郷を旅立ち、大都会の片隅でほそぼそと暮らしている。仕事にも慣れ、平凡な毎日がただただ続いていた。あの日のことなどすっかり忘れて。
そんなある日のことである。
同僚の女性がわたしにこう問いかけてきた。
「ねぇ、あなた今朝、あそこの交差点を会社とは反対方向に自転車で走っていった?」
「え?いえ、まさか。会社直行してますよ」
「…そうよねぇ」
「何でですか?」
「いえね、あなたにそっくりな人がいるのよ、いつも」
「いつもですか?」
「そう。私が信号待ちしてると、必ず横断歩道の向こう側からやってきて、そして反対方向へ行ってしまうの。いつも声をかけようかなぁって思うんだけど…。どうにもふに落ちないから掛けず仕舞いだったんだけど。」
「ど、どんな人なんでしょうか、その人」
「どんなって、見た目がそっくりなのよ。その汚いジーンズも、髪型も、顔も体型も、あと自転車の色だってまるで同じなのよねぇ」
この話を聞いたときに、わたしはなぜか直感的に
ヤツが来た…
と感じた。
額にじんわりと冷や汗をかいているのがわかる。
「…近づいてきています、確実に」
「え?何が?」
「田舎にいたころ、同じようなことがあったんです。きっとその人です。その人が東京までやってきたんです。私の近くまでやってきたんです。」
「はあ?」
「…ドッペルゲンガーです。」
「ドッペルゲンガー。…自分とそっくりの分身でお互いが出会うと死んじゃうって言うあの…?」
「ええ…。」
「…。」
「冗談ですけど…。」
自分から言っておきながら、少し恐怖を感じる。
心なしか冗談にしきれない自分がそこにいたのだ。
しかし、それから数ヶ月もしないうちに、同僚の女性はいつしか私のそっくりさんを見かけなくなったという。
良かった、どこかに消えたんだ…。
私は安堵していた。結局、昔も今も、その人物が私の前に現れることは無かった。きっとこれからも会うことは無いだろう。いや、会わないほうがいいのかもしれない。
そもそも、ただの他人の空似ってやつだったのだろう。気にすることなんて無いんだ。そうしてまた、私は記憶の奥底にこれまでの不安を閉じ込めた。
しかし、先日
私は…見てしまった。
私の通勤ルートを少しはずれた駅の片隅で、ただでさえ珍しいと言われる私のバイクと同型で、その中でもさらに珍しいと言われる私と同じあのカラーリングのバイクが、ひっそりと駐車してあるのを。
人影は無い…。
…来た…。
わたしはまた、額に汗がにじむのを感じた。
出会うのは、もう遠くない未来かもしれない…。
(いや、ちょっと待て、それより「汚いジーンズ」ってなんだ?)
芳しの匂い袋
道を歩いていたら、
前方から素敵な男性が歩いてきた。
ドキドキドキドキ。
高まる鼓動。何があるわけでもないが緊張する。
一歩、また一歩と近づくふたり。
そうして、
まさに通り過ぎようとしたそのとき
なぜか
腐ったようなものすごい悪臭が漂ってきた!!
え、ええ───Σ(゚■゚;)───!!!?
幻想が音を立てて崩れてゆく。まさかこのステキな男性からこんな生ゴミのような匂いがするなんてっ!!
しかしそのとき私は見たのだ。
男性も同じように顔をゆがめて
私 を 見 て い る の を !
えっ何!?この人の匂いじゃないの!?
っていうか、その目!!
あきらかに私を疑ってる――Σ(°■°;)───!!
が。
あまりのショックに視界が真っ暗にフェイドアウトしようとしたとき、わたしは見た。
すぐそばの生垣の裏でゴミ袋を持ったオバサマが立っているのを!
ジーザス!
わたしは無実無臭なのよぉお――(つД`)――!!
暴露喫茶
映画館に行きチケットを購入したのですが、お目当ての映画まで時間があったので、近くの喫茶店で時間をつぶすことにした。
人もまばらで、落ち着いた雰囲気の店内。わたしはコーヒーを飲みながら、これから見る映画への期待に胸をわくわくさせていた。
すると、映画まであと数十分ほどになったころ、先ほどまでほとんど人がいなかった店内がにわかに混み始めた。
ざわざわする店内に、あと5分もしたらもう行くかなぁ…と考えていると、わたしの両隣に2人連れの客がそれぞれ座った。
右隣2人「はぁ〜」「ふぅ〜」
左隣2人「よいしょ」「あ、カバンこっちね」
くぅ「…(ひまだ)。」
すると、右隣がなにやら会話をし始めた。
右隣2人「でさ、結局のところあの男の人は何だったわけ?」「ああ、なんか難しくてよくわかんなかったね」
ん…?なんだこの会話…。
右隣「だからさ、彼は□□だったわけだよ」「あー、それで△△は××なんだ」
なんだか…これってもしかして…やばいんじゃ。
わたしは嫌な予感がして右隣の話を聞かないように耳をふさぎ、左隣に向き直った。すると、左隣もなにやら話に盛り上がっている様子。
左隣「それにしても○○(お目当ての映画の主人公)が**だったなんてびっくりだよねぇ」「ほんと!そう来るとはねぇ〜」
…って
ぎゃああぁあぁあ(∩゚■゚;)ああぁああ―!!!
両 隣 と も 今 か ら 見 る 映 画 の エ ン デ ィ ン グ の 話 じ ゃ な い で す か !
母さん、この世は
陰謀に満ちあふれています!。・゜・(つД`)・゜・。
教訓
- 映画鑑賞前は、安易に近くの喫茶店へ行くのはやめましょう
- どうしても行きたいときは、前の回の鑑賞者が来る前に立ち去りましょう