キャント・ストップ・ミュージック

usakima2003-12-22

いわゆるハイソなインテリアショップに行った。店内はクリスマス一色で、こちらも心躍る気分である。


すると、どこからともなく木琴の音が聴こえてきた。
あ、これは「赤鼻のトナカイさん」。そうだね、クリスマスの定番曲よね。まっかなおっはっなっの〜、トナカイさ〜ん〜わ〜♪店内に響くそのメロディにしばし耳を傾けてみることにした。
しかし、しばらくして、なにやら雰囲気が違うことに気づく。楽しいはずのあのメロディが、あまりフレンドリーじゃない。なるほど、そうか原因は、やたらと早いそのテンポ。何と言うか、挑戦的。早さを競うかのごときハイスピードで、鳴り響くのはなぜかエンドレスにイントロだけ。


「真っ赤なお鼻のトナカイさんはいつもみんなの笑いもの・真っ赤なお鼻のトナカイさんはいつもみんなの笑いもの・真っ赤なお鼻のトナカイさんはいつもみんなの笑いもの・真っ赤な…♪(以下略)」


なんじゃこりゃ、おかしいぞ!明らかに店内の用意されたBGMじゃない!これは生演奏だ!さては、おもちゃコーナーにある木琴を弾いている子どもの仕業だな?
すかさず音のする方向へ目を向ける。すると、そこには子ども用の木琴をしゃがみながら一心不乱に叩いている、
…30代くらいの男性がいた。


え── Σ(゜Д゜;)──ッ!いい大人じゃん!


なぜそんなとり憑かれたように…。しかも「トナカイさんは〜♪」のところがぎこちない。弾きにくいのか?むきになってやり直す様子がかなり必死だ…。
そんな男性の隣をよく見ると、


あれ…?
そこには、所在なさげに男性を見上げながら、服をひっぱっている小さな小さな男の子がいた。なんと悲しいその瞳…。
はっ!もしや、この男性、ぼくのお父さんなんだね?我を忘れてるけど、一家の大黒柱の、ぼくのお父さんなんだね?ちょ…、ちょっと、お父さん!子ども明らかにあきてるじゃん!ほら、子どもが帰りたいって訴えてるよ!気付いて!みんなの笑いものになるのは、トナカイじゃないよ、お父さんだよ!


お父さ─── (゜Д゜;)───んッ!!


いつまでも少年のような心を忘れない男の人は素敵だと思うが、あるとき、ふと突然に迷惑な存在となりうる危険性をもっているのかもしれない。そんなことを考えて店をあとにした。


もう、お父さんは止まらない──。そう悟った子どもの目が印象的で忘れられない、そんなクリスマス前の一日だった。せつない。